ぽつぽつと灯りのともる公園内。
駆け足で遊歩道を巡る。
息が白い。
公園に入ってからこれまで誰ともすれ違わなかった。
やはりもう列車に乗って行ってしまったか――

諦めかけた時、少し先の池を囲む柵に寄りかかる少女の姿を見つけた。
何か思案に暮れているのか、ぼうっと中空に視線を彷徨わせている。

【玲人】 「――やあ」

【少女】 「えっ……!?」

軽く片手を挙げると、少女は数歩後退った。
……まあ、普通は警戒するよな。

【玲人】 「さっき喫茶店に本を忘れていっただろう?」

【少女】 「あ……えっ……?」

少女が鞄の中をまさぐる。

【少女】 「あ……ない……」

【玲人】 「ほら、持ってきてあげたよ」

本を手渡す。

【少女】 「あ……さっきの――お米屋さん」

貌を上げた少女が己を見て言葉を洩らす。

【玲人】 「……いや、それは違うんだが」

【少女】 「どうも……ありがとうございます」

少女が頭を下げる。

【玲人】 「――その本を読んでいたのかい?」

【少女】 「……はい」

【玲人】 「よかったら、感想を聞かせてくれないかな」

【少女】 「えっ……?」

不思議そうな表情を浮かべる少女。

【玲人】 「単純に興味があるんだ。……その、本に」

慎重に言葉を選ぶ。
“シェオルの殻”と云う物語が何を元にしているのかは知っている。
だがそれを無関係な少女に聞かせるわけにもいかない。

【少女】 「……哀しい話、だと思います」

少女は暫し考えたあと、そう答えた。

【玲人】 「ふむ――」

葛城シン――間宮心爾の半自伝とも云える内容。
確かに同情できる点はあるが――

【少女】 「……私は、この少年の気持ちが解るような気がします」

【玲人】 「……解る?」

【少女】 「ええ……この少年は、愛されたことがないから
     ――本当に愛してくれる母親を求めている。……私も同じ、だと思いますから」

――その思想は危険なものだ。